OB/OG紹介 – 株式会社旅と平和 代表取締役:佐谷恭さん
旅の概念から生まれた、「人と人の交流」
工藤:佐谷さん、初めまして!本日はお忙しいところお時間頂きありがとうございます。第45回東南アジア青年の船参加青年の工藤清香と申します。よろしくお願いいたします!
佐谷:よろしくお願いいたします。私は1998年、第10回の世界青年の船に参加し、その時はシンガポール、セイシェル諸島、ケニア、ヨルダン、オマーンに寄港しました。元々旅が好きで、世界青年の船ははじめて自分がすべてを決めない形での旅でした。でも船上でサッカーチームを作ったことがきっかけで、オマーンでナショナルスタジアムに入り、代表選手数名を含むプロチームと親善試合をすることができ、国家事業だからこそ経験できたこともありました。
工藤:インタビューにあたり、佐谷さんのご経歴をWEB中心に調べさせて頂きました。東京・経堂でのパクチーハウス経営、東京初のコワーキングスペースの運営(両店舗とも2018年3月で閉鎖し無店舗展開と称し、世界各地でポップアップ営業をしている)、また「シャルソン」(詳しくは後述)など、様々なことを行っていらっしゃいますが、軸として共通しているのは「ヒトの交流」であるように感じました。
佐谷:そうですね。“物事にコミュニケーションを加える”という点かなと思います。SNSの普及に代表されるように、現代社会にコミュニケーションをするツール自体はたくさんあります。しかし、本当にコミュニケーションをとっている人は少ないと思ったんですね。知らない人と話し、お互いの幅を広げる行為をしている人がとても少ないんじゃないかと。
工藤:知らない人と話す、という観点は旅から来ているのでしょうか。佐谷さんの経営されている会社の理念は「旅という経験の積み重ねが、国境を越えた人々の理解を促し、平和につながる」というものでした。
佐谷:やはり、旅に出ると人に出会います。観光地だけを巡るのでは意味はないですよ。そうではなく、もっと土地に近い場所で土地に近い人と出会うことによって、その町本来の雰囲気や歴史に触れられると思います。それは結局、そこで発生するコミュニケーションからくるものだと私は思っているんですね。大学を卒業したら就職し、結婚し、という「人生のレール」に乗って”忙しいから“旅をしない多くの日本人とは異なり、私が旅の中で出会うヨーロッパの人々は、人生の折々で旅をします。時には伴侶を連れて、時には子どもを連れて。そこで、もし日本人が旅をしないなら、日常の生活の中に”旅“を作ろうと考えたわけです。みんな仕事や食事はしますよね。このような考えの中で、コワーキングスペースのPAX Coworkingやパクチーハウスが生まれました。
工藤:なるほど。その感覚、私も感じた事があります。インドネシア語が専攻の一つなのでインドネシアにもよく足を運ぶのですが、外国人なんて誰も知らないような路地の中の、ミーアヤム(インドネシア風ラーメン)屋さんで食べた味、そこで出会い会話をした人々のことはずっと忘れません。またそのような人々こそ、現地の貴重な情報を話してくれることがよくあります。これは私がインドネシア語を話せるというのが大きいかもしれませんが、言語もその土地に近づくための1つの鍵なのかなとも思います。
写真を撮って終わりではなく、人に出会って帰ってくる旅を
工藤:その土地に近づく、という点では、佐谷さんが始めたもう一つの取り組み、「シャルソン」に関してはどうでしょう。「シャルソン」とはソーシャルマラソンの略で、とある地域がホストとなり、そこでマラソンを開催します。普通のマラソンと違うのは走るコースも距離も自由ということと、走っている最中に出会った人との積極的な交流が推奨されているということ。そして、コースの中で発見した地域の魅力をSNSにアップするのが参加条件になっていますね。こちらは、「ヒトの交流」×「地域」という印象を覚えました。
佐谷:元々生活と地域というのは密接な関わりがあるはずです。先程の話ともリンクしますが、インドに行ってタージマハルをみた、ではなく、その近くに住む少年たちとクリケットをしたというエピソードのように、ガイドブックに載るような事項ではないけれど、こんなおもしろい人たちがいます!ということを“発見し発信する”手段としてシャルソンを考えました。有名なラーメン屋だけではなく、普通の草餅屋さんにもこだわりがあるはずです。そこをくみ上げようとすることで、自然とシャルソンの参加者同士、また参加者とそのホスト地域住民との間にコミュニケーションが生まれます。
工藤:私がインドネシアで経験したこと、佐谷さんが世界中で経験したことを、日本中で展開し、地域おこしをしているということですね。
佐谷:そこに町があって人がいるということは、そこに歴史があるということです。観光地で写真を撮って終わりではなく、人に出会って帰ってくる。写真撮影は一度でそれが大事なのではないかと。
新しいことをはじめる
工藤:シャルソンもこれまでになかった新しい切り口の活動ですが、パクチーハウスしかりコワーキングスペースしかり、佐谷さんは次々社会に対して新しい価値観を提示されているように思います。新しいことをはじめる時に一番難しいことは何でしょうか。
佐谷:やはり、前例がないことですと初めはみんなに否定されますね。それは難しいと。けれども世の中を作っていくためには必要なことだと自分が信じられるならば、めげずにパッションを伝えていくことです。具体性を持たせていくこと、そして他人を尊重しつつも良い意味で他人の意見を聞かないことも必要ですね。そして、そのような中でも来てくれた人や来てほしい人、一人ひとりに語りかけていくこと。
工藤:一度否定されたところですぐ諦めずに、まずやってみることが大切なのですね。
佐谷:そうです。まずやってみること。とりあえず作ってみる、試してみる。新しいものが好きなんですね。
次世代リーダーたちへ、自分の世界をまたぐ旅を
工藤:次々新しいことに挑戦されてきた佐谷さんですが、今の若者、そうですね、青年層ということで、20代~40代を見ていてどのように感じられていますか?
佐谷:世の中に流される人が多いと思います。ただでさえ同調圧力が強い社会と言われていますが、そこから一歩踏み出した経験を持たない人が多い。その点、視野が広ければ広いほど自分の考え、自分の軸を持つことができます。だからこそ、旅が必要だと思うのですね。
工藤:とても共感出来ます。私は岩手県のとある田舎町出身なのですが、そこから一歩踏み出してほかの世界をみてみました。それによって今まで自分が囚われていた常識や社会通念に疑問を持つようになった一方で、故郷や日本の好きな点や誇らしい点を多々発見できました。「そうだね。でも私はこういうことがあったから、こういう考え方もあると思う」というようなフレーズを使えるようになりました。
佐谷:最近はよく、「コスパ」という観点で物事を評価する人が多いように感じます。その点、旅は即効性が見えにくいのでコスパが悪いように思われるかもしれませんが、得るものは非常に多い。中でも、徐々に徐々に効いてくるものが多い。
工藤:即効性というよりは、長い視野でみての想像力を養えるということかなと思いました。日本国内でもこの旅は成立しますね。国境をまたぐことが旅の全てではなく、自分の世界をまたぐこと、が、佐谷さんの仰る「旅」のように思います。
工藤:私たちの世代ですと、起業が1つのブームになっています。佐谷さんは務めていた企業を退職して起業されたのち前述のようなおもしろい、新しい活動を興されていますが、起業したい若者に対してはどう思われますか?
佐谷:やった方がいい。まずやってみた方が良いです。うまくいかなくても失敗によって勉強できますから。前にも出てきましたが、「人生のレール」にのって就職し、給与をもらうことによって、逆に起業できなくなるように思います。
工藤:安定を覚えてしまうと、挑戦へのハードルが高くなるという現象ですね。
佐谷:自分の好きなことをとりあえずやってみれば良いと思います。まずは小さな反抗をしてみることから始めれば良いです。
みなさんへのメッセージ
工藤:最後に、既参加青年やこれから応募を考えている人へのメッセージをお願いします。
佐谷:自分の思い描く社会を実現するためには何をすべきか?ということを考えてもらいたいですね。そこで、いきなりゴールを目指すのではなく、小さな一歩から始めてみましょう。物事を「自分化」して、主語を自分にしてみれば、なぜこうなっているのか?なぜやらなくてはならないのか?という疑問が出てくると思います。それを無視せずに、自由度の高いことを許容していく、ということができれば良いのかなと思っています。
工藤:今回のインタビューのまとめをして頂いた形になってしまいました(笑)。許容していく、とは、きっとそこから発見していく、工夫していく、という意味を含んでいますよね。
私自身が考えていたことと共通する点も多く、あっという間のとても楽しい時間を過ごさせて頂きました。今後もぜひ折々にお話しさせて頂ければと思います!本日はありがとうございました。
インタビュー担当:工藤 清香(第45回東南アジア青年の船事業参加)